久しぶりに「焚火カフェ」のプログラムを担当し、参加者の方と火の前で話しをしているうちにアラスカの旅のことを思い出しました。

今まで、数百回は焚き火をしてきたと思います。
そのほとんどがアラスカの原野での焚き火でした。

アラスカ原野への旅は一ヶ月以上に渡ることもめずらしくありません。
そんな時はキャンプ道具や食料など、大量の荷物が必要になるので持って行ける燃料も限られます。
ですから、できるだけ焚き火をして調理をしたり暖を取ったりするのです。

アラスカには道路やトレイルなどはほとんどないので、長期の旅の時には折りたたみ式のカヤックを使います。
カヤックなら一ヶ月分の食料やキャンプ道具を積んで広大な自然の中を旅することができるからです。

川を下る場合には、川の上流までセスナ(軽飛行機)をチャーターして移動します。もちろん空港などありません。
「ブッシュパイロット」と呼ばれる、原野を飛ぶことを専業としているパイロットに頼み、河原や小さな湖などに下ろしてもらうのです。

そこからはカヤックで川を下ったり、海を漕いだりして小さなネイティブの村を目指します。移動距離はその時によって違いましたが100km程度のこともあれば、長い時には500km以上移動したこともありました。村に到着してもそこにアクセスする道路はないので、村からは定期便でフェアバンクスなどの都市へ戻る。そんな旅を今まで何度も繰り返してきました。

夏のアラスカは北極圏でも天気が良ければ20℃を超えることもありますが、一度天気が崩れると0℃近くまで下がることもあります。
そんな時、焚き火は暖をとったり、暖かい食事をとるための必要不可欠な日課となるのです。

天気が良くて暖かい時でも、薪が確保できれば必ずと言っていいほど焚き火をしていました。
燃料の節約、ということもありますが、火の存在がなんとなく気持ちに余裕を持たせてくれるのです。
自分がいる場所から周囲数百キロ、村もなければ道もない、という広大なアラスカ原野の旅は、どんなに条件のいい時でも緊張感があります。
焚き火は、そんな緊張をほぐしてくれる旅の友のような存在でもあるのです。

また、長期の旅の時には釣りも欠かせない日課のひとつです。
荷物を減らすために生鮮食料品は持って行けないので、魚が釣れるとそれは最高のごちそうになります。
そして、その「ごちそう」を調理するために焚き火は欠かせないツールとなるのです。
下の写真は熱した平たい石で北極イワナという、体調40cmほどの魚を焼いているところです。火の上の鍋では米を炊いています。

 

川旅のよいところは河原に流木が多く、薪には困らないことです。
夏のアラスカは乾燥しているため、流木もカラカラに乾いていてすぐに火を起こすことができます。
もちろん、雨が降っている時など、焚き火をしない日もあります。しかし、雨に濡れたりして体を暖めなければならない時は、たとえ薪が濡れていようとも火を起こさなければならない時もありました。
また、北極圏でも北の方では川の上流に森がないため、薪の調達に苦労することもありました。

雨の中どうやって焚き火をするのか、また、少ない薪で長く火を持たせるにはどうしたらいいのか、などという焚き火の技術はアラスカの旅で身についたものです。

ほんの少し前まで、人の暮らしに火は欠かせないものでした。
今では焚き火をする機会はなかなかありませんが、火が身近だった頃の記憶が私たちのどこかに残っているのかもしれません。
火を見ているだけで心地よさを感じるのはそのためではないでしょうか。

今回「焚き火カフェ」に参加された方は、子供の頃「五右衛門風呂」を使っていたそうです。今は東京に住んでいるので焚き火などできるはずもありませんが、火を見ながらその頃のことを思い出したそうです。
僕が焚き火をするとアラスカを思い出すように、誰もが火を見ることで思い出す記憶を持っているのかもしれませんね。